2012年5月13日日曜日

JAMA -JAMAGAZINE-


特集 自動車素材−材料の進化と課題

自動車素材の変遷

高 行男[中日本自動車短期大学教授 工学博士]

はじめに

 自動車に求められているキーワードは、安全、環境、燃費、リサイクルである。これらは材料と密接に関連している。排出ガス問題として話題になったディーゼルエンジンの黒煙などを捕集するDPFひとつとっても、炭化ケイ素というセラミックスが重要な役割を果たし、自動車技術の革新には材料が必要になる。材料があったので使用する一方、使用目的のために材料は新たに開発される。
 既存の材料のリサイクル性は議論されるが、新たに開発される材料にもその視点が必要になるところに問題の複雑さがある。プラスチックのリサイクル問題が議論されているが、複合材料であるFRP(繊維強化プラスチック)の誕生にあたり、リサイクル性のみが問われたとすれば、今日の航空機の主要材料(CFRP)として登場で� �たかは疑問である。材料は人間とよく似ており、ひとつの基準だけで判断できないもの、つまり良いところもあれば悪いところもあると考えて材料を見つめる必要があると思っている。
 自動車の製造というモノづくりの基礎は、材料とその加工である。材料があり、それを加工して初めて製品ができあがる。材料として良い性質があっても、加工がむずかしいと加工コストが高くなり、特に量産車には使用されることにならない。つまりコストという視点が加味される。国内外での自動車販売の熾烈化において、コストは材料の採用基準の大きなひとつであるが、自動車に使用される材料は、時代の要請・課題により中身を変えてきた。自動車には、金属、プラスチック(樹脂)、ゴム、セラミックスなど、さまざまな材料が使われ� ��いるが、本稿では、自動車の軽量化という視点から、鉄、アルミ、樹脂を概観してみたいと思う。

1.自動車を構成する三大材料 − 鉄、アルミ、樹脂


肥料が作られる方法

(社)日本自動車工業会が調査した材料の構成比の推移(表)を見ると、オイルショック以降、鋼板、構造用鋼、ステンレス鋼、鋳鉄などの鉄系材料は80%から70%程度と少し低下してきた。しかし依然として、鉄鋼、いわゆる鉄が主となる材料である。鋼板は普通鋼に分類されている。一方アルミ、樹脂は増大している。アルミを含めた非鉄金属は約8%、樹脂も8%程度の割合である。自動車の軽量化を材料の面から大きく捉えると、鉄からアルミ、アルミから樹脂の使用という流れである。
 鉄、アルミ、樹脂は自動車の三大材料と言えるが、タイヤのゴム、フロントガラスの安全ガラスをはじめ自動車センサーに使われているセラミックス、触媒の白金など重要な材料も多い。セラミックスは鉄、樹脂に次ぐ第3の素材� ��して1980年代に大いに注目を集めた。85年にターボチャージャーの窒化ケイ素セラミックス製ロータが搭載(日産・フェアレディZ)されたのは、画期的であったと思っている。この素材の比重は3.2、タービン翼材のインコネル(比重8.5)に比べ軽い。

表●平均的乗用車の主要材料の構成比変化


電解コンデンサのことができ
種類
1973年 1980年
1986年
1992年
2001年
銑鉄
3.2
2.8
1.7
2.1
1.5
普通鋼
60.4
60.5
57.7
54.9
54.8
特殊鋼
17.5
14.7
15.0
15.3
16.7
非金属
5.0
5.6
6.1
8.0
7.8
 
アルミ 2.8
3.3
3.9
6.0
6.2
合成樹脂
2.9
4.7
7.3
7.3
8.2
その他 11.0 11.7 12.2 12.4 11.
ポリマーであるアイテム
0
(資料)『二訂 自動車材料』(山海堂)と『工業材料』日刊工業新聞社(52巻、9号、2004、P.20)より作成

2.自動車の軽量化と鉄鋼

 自動車を構成する主な材料である鉄鋼は、一般には鉄と言われる。優れた性質を持っており、そのうえコストも安いので大量に使われ、世界の粗鋼生産量は10億トンにも達している。自動車における鉄鋼材料を見ると、ボディなどに使われる鋼板、エンジン部品などに使われる特殊鋼や鋳鉄などがある。鋼板は自動車において最も使用量が多く、重量比は40%程度である。特殊鋼は高い強度信頼性を有することから、エンジン、駆動、シャシなど各ユニットの主要構成部品に使われ、17%弱を占め、この比率はあまり変化していない。一方鋳鉄は、シリンダブロックのアルミ化など軽量化の流れで使用量が減少してきたが、複雑な形状も鋳込むことができ、耐摩耗性や振動吸収性に優れている。
 軽量化の目的は燃費と運動性� �の向上であるが、環境問題を背景に低燃費化が強調されている。低燃費化の方法には、エンジンの燃焼の改善、摩擦損失の低減、空気抵抗や転がり抵抗の低減、車両の軽量化などがある。なかでも車両の軽量化は、燃料消費量を少なくするばかりでなく運動性能の向上にも役立つ。自動車材料に一番に求められた強度信頼性、耐久性、コストなどに応えてきた鉄鋼は軽量化にも取り組んできた。


2.1 特殊鋼
 軽量化の手法は板厚を薄くし、余肉削減が基本であるが、その前提は当然であるが安全性の確保である。軽くするため必要な寸法を減らすと破壊につながるためである。時間が経過して現れる疲労破壊など厄介な現象もある。
 構造部材は一般的にどの部分であっても軽量化が必要であるが、その重要度は使用部位によってかなり異なる。これは、ある部分の軽量化は、それ自体の重量軽減に留まらず、その部分を支えているほかの部分の負担を軽減するからである。例えばコンロッドの軽量化はそれが往復運動部分であるため、エンジン性能の向上ばかりでなくシリンダブロックやクランクシャフトの負担を軽減し、エンジン全体の軽量化に貢献している。図には、コンロッドが軽くなってき た推移を示した。
 鋼における軽量化には、素材自体の強度を上げることと、部材表面に表面処理を施して強くし小型化を図る方向がある。ホンダ・インサイト(99年)のコンロッドを見ると、浸炭処理をして表面を硬く強くし、小型化することによって30%軽くなっている。鋼の代わりにチタン(ホンダ・NSX、90年)やFRM(繊維強化金属)を採用(ホンダ・シティ、85年)して軽量化を図っている事例もある。バルブについては、耐熱強度と軽量化を図ったナトリウム封入中空バルブの採用(日産・スカイラインGT-R、89年)がある。過酷な使用条件にあるバルブの軽量化にはチタンやセラミックスが検討され、チタンやチタン基複合材(トヨタ・アルテッツァ、98年)の採用例がある。セラミックスバルブは搭載には至らな� ��ったが、実車搭載試験の段階にあったことは強調しておきたい。
 特殊鋼とは、炭素鋼にクロムやニッケルなどいろいろな元素を加えたもので、耐食性や耐熱性など特殊な性質を示す鋼である。つまり、使用部品の要求される機能に対応するよう改良されてきた材料であり、クロムモリブデン鋼などの構造用合金鋼、ステンレス鋼、工具鋼、ばね鋼、軸受鋼、耐熱鋼、快削鋼など多種多様である。歴史を持っており、鉛フリーの快削鋼など改良され続けられている材料のため、特殊鋼の自動車における地位は今後も変わらないと考えている。特に排気系の部品に使われるステンレス鋼は80年以降1台当たりの使用量が増加している。軽量化の視点で見ると、特殊鋼は鉄という同じ仲間の鋳鉄と競合していると言える。その対象は、クラ� ��クシャフト、カムシャフト、排気マニホールドなどである。ステンレス製排気マニホールドでは、軽量化とともにエンジン始動直後の排ガス浄化性能向上が図れる。


2.2 高張力鋼板
 高張力鋼板(High Tensile Strength Steel)は、ハイテンと称されている。オイルショックによる自動車の燃費向上が引き金となり、ボディ軽量化の必要性から、高張力鋼板が採用され始めた。通常の鋼板(引張り強度は300MPa程度)より板厚を薄くすることができるため軽くなる。90年代には440MPa、2000年には590MPa級が一般的となり、超高張力鋼板とも言われる980MPa、さらに1180MPa、1470MPa級も登場してきた。高張力鋼板は、90年代ボディ重量の25〜35%を占めているが、最近では45%の採用例(トヨタ・プリウス、03年)も認められる。
 部材の剛性は材料の強さではなく、材料の弾性率と板厚などによって決まる。弾性率は通常の鋼板も高張力鋼板も同じであるので、高張力鋼板の採用が有効な個所は、疲労強度や変形強度が要求されるフレーム、ピラー、メンバー類、耐デント 性が要求されるフロントフード、トランクリッドなどの外板パネルなどである。
 高張力鋼板はボディの軽量化と衝突安全性向上という本来相反する課題に対処しようとしている。つまり衝突安全性を簡便に確保するには補強材を追加すればよいからである。衝突安全規制は従来のフルラップにオフセットが加わる厳しいものとなっていくので、衝突エネルギー吸収能力が高い高張力鋼板の果たす役割は大きい。
 高張力鋼板によりどれくらいの軽量化が図れるかをULSAB(Ultra Light Steel Auto Body, 98年)について見ると、3リッターV6エンジン搭載の4ドアセダン(目標車両重量1,350kg)の車体重量が203kgで、同タイプ市販車の平均車体重量271kgに比べ68kg(25%)の軽量化を達成している。ULSABでは高張力鋼板が、定義によるが64〜91%と多用されている。この軽量化の達成において、剛性を確保するボディ構造の最適化やテーラードブランク、ハイドロフォーミング、レーザー溶接などの加工技術による寄与も大きいとの指摘は重要である。これらの加工技術は今日では一般的になり、テーラードブランクにより軽量化した市販車が登場している。

図●コンロッド質量の変遷

(出典)『工業材料』日刊工業新聞社(52巻、8号、2004、P.20)

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